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北欧スタートアップエコシステムの特徴

 

フードデリバリーのWolt, 音楽配信のSpotify, ゲームエンジンのUnity, 教育用ゲームのプラットフォームKahoot、Supercell(クラッシュ・ロワイヤル)やMojang(マインクラフト)などのゲーム会社、そして睡眠計測のウエアブル機器のOura Ringなど、日本のでも知名度の高い北欧スタートアップ企業が増えてきました。北欧では、5カ国全体(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)における人口一人当たりのユニコーン社数がシリコンバレーに次いで2位[i]。人口一人当たりのベンチャーキャピタルの投資額は、スウェーデンがヨーロッパ1位[ii]など、スタートアップエコシステムが着実に築き上げられてきました。

 

この数年、日本から北欧への投資案件も右肩上がりに伸びています。一方で、現地のスタートアップエコシステムについてはまだ知られていないことも多くあります。ここでは、北欧ならではのスタートアップエコシステムの特徴を、いくつかご紹介します。

 

はじめに、北欧のスタートアップエコシステムは社会福祉国家の基盤の上に成立していることが挙げられます。起業とはリスクを伴い、成功するスタートアップはほんの数パーセント[iii]。強固なセーフティネットの存在で、失敗しても自身や家族の生活に大きな支障をきたさないことは、起業家にとって大きな利点です。リカレント教育の充実などで、人生における選択の自由が担保されているのも強い味方です。加えて、早くから国策として全国民のI Tリテラシーや電子政府化を進めたことも、技術革新やデータ収集とその活用の促進の一因となりました。

 

次に、Born Globalの精神です。北欧諸国は自国はおろか5カ国全体の域内市場も小さいため(スウェーデン約1,000万人、デンマーク、フィンランド、ノルウェー各約550万人、アイスランド約35万人)、スタートアップは事業を始めたその日からグローバル展開を見据えています[iv]。これには当然、英語力やグローバルな環境への適応が要求されます。充実した英語教育に加え、公用語も通貨も異なる5カ国(下記表参照)の連携が、社会の様々なレベルで進んでいることも、グローバルマインドを育成するのに寄与していると言えるでしょう。

 

また、スタートアップエコシステムがボトムアップの動きから成長してきたというのも、大きな特徴です。北欧最大、世界でも有数のスタートアップイベントSlushは、2012年にアアルト大学の学生が主導したイベントでした。欧州最大のハッカソン運営組織Junctionや学生主導ベンチャーキャピタルのWave Venturesの発展も、学生や若い起業家が原動力となっています[v]

 

国別の特徴にも触れると、各国が元来強みとしてきた産業やクラスターの周辺に、スタートアップエコシステムが構築されていることが挙げられます。例えば、ノキアの存在が大きかったフィンランドでは、情報通信分野の技術を基盤としたスタートアップが多く見られます。同社が離職者向けに、シードファンディングや特許の利用許可も含んだスタートアッププログラムを提供、ノキア時代のキャリアを活かした起業を促進していたことも影響しています[vi]。レオファーマやノヴォノルディスクなどのグローバル製薬会社をもつデンマークでは、ライフサイエンス分野のエコシステムが発展してきました。デンマークのコペンハーゲンからスウェーデン南部にまたがるメディコンバレーには、12の大学、32の病院、80上の研究期間、1,100社以上のライフサイエンス系企業にまたがる60,000人以上が1,100社以上にまたがるライフサイエンス系企業に従事しています[vii]。スウェーデンはボルボ社の存在で、スマートモビリティーやバッテリーのバリューチェーンを形成するスタートアップが多く誕生してきました。ノルウェーやアイスランドは海洋国家として、漁業、海洋技術の先端技術に関するスタートアップが多いことに加え、ノルウェーは産油国としての技術を活かしたCCUS(CO2の回収、貯蓄、利用)分野にも注力しています。

 

また5カ国に共通して存在しているのが、持続可能性、グリーントランスフォーメーションに向かう吸引力です。北欧は、2030年までに、世界で最も持続可能かつ統合された地域になる、という共同首脳声明を2018年に発表しており、グリーントランスフォーメーションを国際競争力の維持、伸長の要として早い段階から掲げてきました。現在では、V C投資に占めるインパクト投資の割合が36%と、世界で群を抜いて高い数字になっています[viii]

 

日本も脱炭素社会への技術革新に舵を切る中で、北欧スタートアップとの連携や協業は多くの可能性を秘めていると言えます。
ご質問、お問い合わせや、より詳しい情報をご希望の方は、お気軽にtokyo(a)nordicinnovationhouse.com までお問い合わせください。

 


[i] https://www.linkedin.com/pulse/nordics-thriving-startup-ecosystem-unicorn-factory-valuer-ai/

[ii] https://dealroom.co/uploaded/2024/02/Dealroom-Sweden-Tech-Report-022024.pdf?x50714 (Sweden tech 2023 report)総額では、イギリス、フランス、ドイツに次いで4位。

[iii] https://diamond.jp/articles/-/337907

[iv] https://forbesjapan.com/articles/detail/43513

[v] https://www.ft.com/content/6bf83564-d4bb-4a7d-898a-043a31f0fc03

[vi] フィンランド、オウル市のスタートアップエコシステム形成へのノキア社の寄与についてはCLAIRによるレポートを参照https://www.clair.or.jp/j/forum/pub/docs/553.pdf

[vii] https://mva.org/about-mva/medicon-valley/

[viii] Nordic Impact Startups 2023 https://dealroom.co/reports/nordic-impact-startups-2023?mc_cid=1eec2d474a&mc_eid=9b021d2dff

 
Akiko Shiono